MolForma

題材9 分子間錯体とBSSE補正(ベンゼン–水)

ベンゼンを座標の原点・XY面にそろえ、その環の中心の真上3.40 Åに水の酸素を置いて、2つの水素を環に向けた二量体を作ります。2つの分子は結合していないので、MolFormaはそれぞれを単量体として扱えます。MP2/6-31G*で、基底関数重なり誤差(BSSE)をcounterpoise法で補正した相互作用を計算します。

作るもの 内容
分子 ベンゼン–水二量体 C₆H₈O(15原子・電荷 0・一重項)
使う機能 2つ目の分子を空白に置く、選択単位「分子」、主慣性軸へ整列、座標の表(3D+表)のセルの編集、寸法による分子どうしの距離、BSSE補正(counterpoise)
計算 MP2/6-31G*、一点エネルギー、BSSE補正
計算時間の目安 約20秒(MPI 6プロセス)
計算環境 AMD Ryzen 7 2700X(8コア・16スレッド)、メモリ 32 GB、NWChem 7.3.1(Linux)
練習データ benzene_water.molforma.json

環の上に水を置いたベンゼン–水二量体(+X方向から)

1. ベンゼンを原点・XY面にそろえる

  1. 「ファイル → 新規」で、分類「骨格」の「ベンゼン」を空白に置きます。
  2. 3D画面の上の「選択単位」を「分子」にし、ベンゼンの原子を1つクリックします。分子全体(12原子)が選ばれます。
  3. 右側の「変形」ページの「向き・位置」で「主慣性軸へ整列」を押します。重心が原点に、環がXY面に、環の法線がZ軸になります(座標の表で炭素のZが0.000000になります)。

    選択単位「分子」でベンゼン全体を選び、「主慣性軸へ整列」を押したところ。環が画面に平行に並び、12原子が橙の輪で強調されている

    図1 選択単位「分子」でベンゼンを選び、「変形」ページの「主慣性軸へ整列」を押したところ。

2. 水を置いて位置を決める

  1. 選択を解除(Esc)し、分類「骨格」の「水」を、ベンゼンから離れた空白にクリックして置きます。結合していない2つ目の分子になります(C6H8O · 15原子 · 14結合)。

    ベンゼンから離れた空白に置いた水(O13・H14・H15)。ベンゼンとは結合していない

    図2 空白に置いた水は、結合していない2つ目の分子になります。

  2. 3D画面の下の帯の右端で「3D+表」を選び、座標の表を出します。水の原子はO13・H14・H15です。
  3. 表のX・Y・Zのセルをダブルクリックして値を入れ、Enterで確定します。

    原子 X Y Z
    O13 0 0 3.40
    H14 0.757 0 2.814
    H15 −0.757 0 2.814

    酸素は環の中心の真上3.40 Åに、2つの水素は環の側(Zが小さい側)に向きます。セル1つの編集が「元に戻す」1回です。

    「3D+表」の座標の表で、O13が (0, 0, 3.400000)、H14が (0.757, 0, 2.814)、H15が (−0.757, 0, 2.814) になっている。3D画面では水が環の中心の上に重なって見える

    図3 座標の表に水の座標を入れたところ。行を選ぶと3D画面でもその原子が選ばれます。

  4. 「+X」で横から見て、水が環の真上にあることを確かめます。

    「+X」で横から見たところ。ベンゼン環が縦の線に見え、水の酸素が環の中心の真上(画面の左)にあり、2つの水素が環の側を向いている

    図4 「+X」から見ると、環の中心の真上に水があり、水素が環を向いているのがわかります。

座標を直接入れる代わりに、結合していない2原子(例: ベンゼンの炭素と水の酸素)を選んで「寸法を適用」で距離を決めることもできます。別々の分子どうしでは、後に選んだ原子の分子全体が平行移動します。「表示 → 水素結合を表示」をオンにすると、条件を満たすX–H···Y(X, Y = N, O, F)を破線で示します。

3. BSSE補正の設定

  1. 「2 計算条件」の「基本設定」で、計算目的を「一点エネルギー」、電子状態の手法を「MP2」、基底関数を「6-31G*」にします。
  2. 左の一覧の「BSSE補正」で「単量体ごとのcounterpoise補正(BSSE)」をオンにします。「単量体 2 個: C6H6、H2O(電荷は原子の形式電荷から決めます)」と表示されます。

    「2 計算条件」の「BSSE補正」。「単量体ごとのcounterpoise補正(BSSE)」がオンで、「単量体 2 個: C6H6、H2O」と出ている。右の要約は MP2 / 6-31G* の一点エネルギー

    図5 「BSSE補正」をオンにすると、単量体の数と組成が表示されます。

  3. 「4 入力プレビュー」で、bsse ブロックに mon m1 1 2 … 12(ベンゼン)と mon m2 13 14 15(水)、basis に相手の原子をゴーストとして計算するための bqC library C "6-31g*" などの行が自動で入っていることを確かめます。

    「4 入力プレビュー」で bsse ブロックを選んだところ。mon m1 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 と mon m2 13 14 15、上の basis に bqC library C "6-31g*" などの行がある

    図6 入力の bsse ブロック。単量体ごとの原子番号と電荷・多重度が入ります。

BSSE補正は、結合でつながった分子を単量体とします。単量体はどれも閉殻で、全電荷が形式電荷の合計と一致している必要があります。溶媒・TDDFT・物性・後続の一点計算・CUBE/MOLDEN出力・外部点電荷とは併用できません。計算目的を「構造最適化」にすると、BSSE補正した勾配で最適化します。

4. 計算して結果を見る

「計算を実行」(F5)で計算します。NWChemは二量体、各単量体(自分の基底だけ)、各単量体(二量体の基底=相手をゴースト)の順に計算します。「結果ビューア」の「概要」の「計算のエネルギー」は補正後の値で、「物性」タブにBSSE補正量と、各単量体(自分の基底)の和との差である相互作用エネルギー(補正後・補正前)が出ます。

結果ビューアの「物性」タブ。BSSE(counterpoise)補正 1.888 kcal/mol と補正後・補正前のエネルギー、相互作用エネルギー(単量体の和との差)が出ている

図7 「結果ビューア」の「物性」タブ。BSSE補正量と相互作用エネルギーが出ます。

実行した結果

計算 MP2エネルギー
二量体 −307.692764769 Eh
ベンゼン(自分の基底 / 二量体の基底) −231.487186463 / −231.488803294 Eh
水(自分の基底 / 二量体の基底) −76.199007153 / −76.200399241 Eh
BSSE補正量 0.003008919 Eh(1.888 kcal/mol)
補正後のエネルギー −307.689755851 Eh
相互作用エネルギー kcal/mol
補正前(二量体 − 単量体の和) −4.12
補正後(counterpoise) −2.24

補正前の値は、相手の基底関数を借りて単量体が安定になる分(BSSE)だけ結合を過大に見積もっています。6-31G*は分散関数を含まない小さな基底なので、補正後は高精度の文献値(約 −3.3 kcal/mol)より弱い結合になります。

NWChem 7.3.1が出力する「BSSE error」(0.001616831 Eh)と「Corrected energy」は、1つ目の単量体(ベンゼン)の補正しか含みません。MolFormaは結果を読み込むときに各単量体のエネルギーから補正量を求め直し、「NWChemが出力したBSSE補正量 0.001616831 Eh は一部の単量体の和なので、…」と警告して、正しい値を表示します。

うまくいかないとき

関連: 座標の表、「2 計算条件」の物性・BSSE・後続の一点計算、題材12 溶媒和クラスターと点電荷。