題材から選ぶ実習(分子を組んで計算するまで)
MolFormaの画面操作だけで分子を組み、NWChemで計算して結果を確かめるまでを、題材ごとに1本の手順で通す実習です。作りたい分子に近い題材を選ぶと、そこで使う機能(原子と結合、骨格・置換基、配位中心と配位子、配列からのペプチド、立体の指定、点電荷、BSSE補正、遷移状態探索、計算結果の取り込み、同位体、マイ部品など)をひととおり試せます。
各ページの計算は、2026-10-26にAMD Ryzen 7 2700X(8コア・16スレッド)・メモリ 32 GBのPCで、NWChem 7.3.1(Linux、MPI 2〜8プロセス)を使って実際に実行した結果を載せています。各ページの「計算時間の目安」もこのPCで測った時間で、CPUの性能やコア数、MPIの並列数、同時に動かしたほかの計算によって大きく変わります。NWChemの版や並列数によって、エネルギーの末尾の桁や最適化のステップ数も変わることがあります。
この実習の使い方
- 機能から引く画面の部品ごとの説明は「機能と操作」に、画面・タブごとのページに分けてあります。どのボタンが何をするかを調べるときに使います。
- 題材から引くこのページの16題材です。新規の分子から(または構造ファイル・計算結果から)始めて、計算条件の設定、計算の実行、結果の確認までを通します。
- 各ページの構成「作るもの」→ 手順 → 計算条件 → 計算と結果 →「うまくいかないとき」の順です。手順の中のかぎ括弧(「全体整形」など)は画面に表示される名前です。
- 練習データ完成したプロジェクト(
.molforma.json)を、各題材の表の「練習データ」にリンクしています(リポジトリのdocs/recipes/samples/)。Webのマニュアルではリンクからダウンロードでき、アプリの「操作ガイド・マニュアル」ではリンクをクリックすると保存先を選んでそのまま開きます(部品ファイル.molforma-part.jsonは「マイ部品」に読み込みます)。途中から始めたり完成形と見比べたりできます。実行設定(NWChemの実行ファイル・ジョブ保存先など)は含めていないので、計算の前に「3 実行設定」を確認してください。
組み立てた構造と計算結果を区別する
部品を置いた直後や「全体整形」の後の構造は、計算の初期構造です。「全体整形」はOpen Babelの力場(MMFF94・UFF)で形を整える操作で、NWChemの構造最適化とは別です。最適化した構造を次の計算に使う場合は、「結果ビューア」の「分子へ候補として適用」で取り込みます(題材14)。
計算の全電荷と多重度は「2 計算条件」の「電荷・スピン」で決めます。原子の形式電荷(「属性」ページ)は水素補完などの構造の準備に使う値で、全電荷とは別に管理します。残基・断片・配位中心・配位子の追加では、変更前の全電荷が構造から見込まれる値(形式電荷の合計、配位中心は酸化数)と一致していれば、新しい値に合わせます。多重度は推測しないので、ラジカルや開殻の金属を含む分子では自分で指定します。
題材の一覧
| No. | 題材 | 作る分子 | 主に使う機能 | 計算 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 原子と結合から組む | エタノール(9原子)、アセトアルデヒド、ジメチルエーテル | 原子の配置・水素の置き換え、削除、結合の種類、結合への原子の挿入、全体整形、距離の測定 | B3LYP/6-31G* 最適化 → 振動数 |
| 2 | 配位化合物・金属錯体 | trans-[Co(en)₂Cl₂]⁺(27原子・電荷 +1) | 配位中心・配位形状・酸化数、二座配位子、配位子の連続配置、電荷の追従 | B3LYP/def2-SVP 構造最適化 |
| 3 | 芳香族の置換体 | p-ニトロアニリン(16原子) | 骨格テンプレート、置換基による水素の置き換え、o・m・pの作り分け | B3LYP/6-31G* 最適化 → 振動数 |
| 4 | 複素環をSMILES・構造式ファイルから作る | カフェイン(24原子) | SMILESから作成、2次元の構造式ファイル(.sdf)、水素の補完、3Dを再生成 | B3LYP/6-31G* 構造最適化 |
| 5 | 鎖状分子と配座 | n-ブタンのanti・gauche | 二面角の測定と数値指定、名前を付けて保存、緩和スキャン | B3LYP/6-31G* 緩和スキャン(13点) |
| 6 | 立体化学 | 乳酸のR体・S体、2-ブテンのE体・Z体 | 立体を記録(R/S・E/Z)、不斉中心を反転、E/Zを切替 | B3LYP/6-31G* 最適化 → 振動数(E/Z) |
| 7 | ペプチド | ACE–Ala–His–Glu–NME(54原子・電荷 −1) | 配列から構築、末端キャップ、側鎖の状態、配列の表示 | B3LYP/6-31G* 一点(COSMO・水) |
| 8 | 残基の置換と鎖の編集 | His→Pheの変異体(57原子)、ACE–Ala–Glu–NME(37原子) | 選択残基を置換、残基を削除(鎖を分割)、2末端の再連結 | B3LYP/6-31G* 一点(COSMO・水) |
| 9 | 分子間錯体とBSSE補正 | ベンゼン–水の二量体(15原子) | 2分子目の配置、主慣性軸へ整列、座標の表の編集、BSSE(counterpoise)補正 | MP2/6-31G* 一点(BSSE補正) |
| 10 | イオンとラジカル | フェノール、フェノキシラジカル(二重項)、フェノラート(電荷 −1) | 水素の削除、不対電子・形式電荷、多重度と参照波動関数 | B3LYP/6-31+G* 最適化 → 振動数 |
| 11 | 主族元素の分子 | SF₆(八面体)、PF₅(三方両錐) | 金属以外の配位中心、配位形状、フッ化物配位子、回転対称数 | B3LYP/6-31G* 最適化 → 振動数 |
| 12 | 溶媒和クラスターと点電荷 | [Na(H₂O)₄]⁺ と外側の水のTIP3P点電荷 | 指定間隔で複製、水を点電荷に置き換え、外部点電荷の出力 | B3LYP/6-31G* 最適化と一点 |
| 13 | 遷移状態と反応経路 | F⁻ + CH₃Cl の遷移状態 [F···CH₃···Cl]⁻ | 原子の単独配置、距離・角度の数値指定、遷移状態探索、IRCとその方向 | M06-2X/aug-cc-pVDZ 遷移状態探索 → 振動数、IRC |
| 14 | 計算結果から次の計算へ | 最適化したp-ニトロアニリン | 履歴、結果ビューア、分子へ候補として適用、励起状態(TDDFT) | CAM-B3LYP/6-31+G* TDDFT |
| 15 | 同位体と原子の並び順 | エタノール-OD | 同位体・質量、座標の表、原子を並べ替え | B3LYP/6-31G* 振動数 |
| 16 | 自作の部品(マイ部品) | トリメチルシリル基を付けたベンゼン | 選択原子を部品として保存、部品ファイル、マイ部品の配置 | B3LYP/6-31G* 構造最適化 |
この実習にない題材
MolFormaが作るのは有限個の分子(と外部点電荷)で、計算はNWChemの分子向けの機能を使います。次のものは対象外です。
- FMO(フラグメント分子軌道法)やSAPT0(エネルギー分解)。NWChemで計算できないため、タンパク質の活性部位を断片に分けて計算する題材は載せていません。PDBの読込・診断・修復は「1 分子」の右側のページの「残基」ページを参照してください。
- 結晶・周期系、表面、ポリマーの自動生成、溶媒ボックスの自動発生、2つの構造から経路を作るNEB。溶媒は手で置くか(題材12)、連続誘電体モデル(COSMO・SMD)で扱います。
MCPクライアント(AI)から同じ操作を言葉で頼むこともできます。ツールの一覧と例は「MCPサーバー」にあります。