題材6 立体化学(乳酸のR/S、2-ブテンのE/Z)
テンプレートを組み合わせただけの構造では、不斉中心の立体や二重結合の幾何は「たまたまできた形」です。乳酸の不斉中心の立体(R/S)と2-ブテンの二重結合の幾何(E/Z)を記録して確かめ、「不斉中心を反転」「E/Zを切替」でもう一方の異性体を作ります。E体とZ体はB3LYP/6-31G*で最適化と振動数を計算してエネルギーを比べます。
| 作るもの | 内容 |
|---|---|
| 分子 | 乳酸 C₃H₆O₃(12原子)のR体・S体、2-ブテン C₄H₈(12原子)のE体・Z体 |
| 使う機能 | 立体を記録(R/S・E/Z)、3D画面のR/S・E/Zの表示、不斉中心を反転、E/Zを切替、名前を付けて保存 |
| 計算 | B3LYP/6-31G*、最適化 → 振動数(2-ブテンのE体・Z体) |
| 計算時間の目安 | E体 約35分・Z体 約47分(MPI 2プロセス、ほかの計算と並行) |
| 計算環境 | AMD Ryzen 7 2700X(8コア・16スレッド)、メモリ 32 GB、NWChem 7.3.1(Linux) |
| 練習データ | lactic_R.molforma.json、lactic_S.molforma.json、butene_E.molforma.json、butene_Z.molforma.json |

R/S・E/Zの判定にはRDKitを使います。RDKitを含まないビルドでは「立体を記録(R/S・E/Z)」が無効になります(反転・切替は使えます)。
1. 乳酸を組んで立体を記録する
- 「ファイル → 新規」で、分類「骨格」の「エタン」を空白に置きます。
- 分類「置換基」の「カルボキシ –C(=O)OH」でC1の水素を1つ置き換え、続けて「ヒドロキシ –OH」でC1の残りの水素を1つ置き換えます。CH3–CH(OH)–COOH(C3H6O3 · 12原子)になります。
-
「全体整形」で整えて確定します。

図1 組み立てて整形した乳酸(C3H6O3 · 12原子)。
-
右側の「変形」ページを開き、「立体」の「立体を記録(R/S・E/Z)」を押します。ステータスバーに「立体配置を記録しました: C1: S」のように出て、3D画面のC1のラベルが「C1 (S)」になります。どちらになるかは、置換基を付けた水素で決まります。

図2 「変形」ページの「立体を記録(R/S・E/Z)」を押すと、不斉中心のラベルにR/Sが付きます。
- 「ファイル → 名前を付けて保存…」で保存します(この例では
lactic_S.molforma.json)。
2. 不斉中心を反転してもう一方を作る
-
不斉中心C1だけを選び、「変形」ページの「不斉中心を反転」を押します。C1に付いた2つの置換基(ここでは水素とメチル基)の位置が入れ替わり、ラベルが「C1 (R)」になります。

図3 「不斉中心を反転」で、C1の2つの置換基が入れ替わってR体になります。
-
別の名前(
lactic_R.molforma.json)で保存します。
記録した立体は、その後の「全体整形」で守られます。整形の結果が記録と違う立体になる場合は「整形結果が記録済みの立体配置と異なります。元の構造を保持しました。」と出て、構造を変えません。
鏡像を横に並べて見比べるには、分子全体を選んで「変形」ページの「鏡映・複製」で「鏡像の写しを作る」をオンにして「指定平面で鏡映」を押します(写しは元の分子の+X方向6 Åに置かれます)。
3. 2-ブテンのE/Zを作り分ける
- 「ファイル → 新規」で、分類「骨格」の「エチレン」を置きます。
- 「メチル」でC1の水素を1つ置き換え、続けてC2の水素のうち、さっきの水素と二重結合をはさんで反対側の水素を置き換えます。「全体整形」で整えて確定します。
-
二重結合の2つの炭素(C1とC2)を選び、「立体を記録(R/S・E/Z)」を押します。二重結合の中央に「(E)」が出ます。

図4 二重結合の2原子を選んで記録すると、結合の中央に(E)・(Z)が出ます。
-
C1とC2を選んだまま「E/Zを切替」を押すと、二重結合の片側が180°回ってZ体になり、表示も「(Z)」に変わります。E体・Z体をそれぞれ別名で保存します。

図5 「E/Zを切替」で片側が180°回り、Z体になります。
4. 計算して比べる
E体とZ体のそれぞれで、「2 計算条件」の計算目的を「最適化 → 振動数」、手法を「DFT」(B3LYP)、基底関数を「6-31G*」にして計算します。2つのジョブは「履歴」の「ΔEを比べる」で、同じ組成・手法・基底どうしのエネルギー差として並べて比べられます。

図6 「履歴」の「ΔEを比べる」。基準のジョブ(E体)と、組成・手法・基底が同じジョブ(Z体)のエネルギー差が並びます。
R体とS体の乳酸は鏡像異性体なので、どの手法でもエネルギーは同じです(念のため一点計算で確かめるとよい練習になります)。
実行した結果
| 項目 | E-2-ブテン | Z-2-ブテン |
|---|---|---|
| 計算のエネルギー | −157.226911282 Eh | −157.224773869 Eh |
| 構造最適化 | 12ステップで収束 | 22ステップで収束 |
| 虚振動 | なし | なし |
| 双極子モーメント | 0.00 D(対称中心) | 0.18 D |
| ゼロ点補正 | 68.05 kcal/mol | 68.18 kcal/mol |
Z体はE体より ΔE = +1.34 kcal/mol、298 Kのエンタルピーで ΔH = +1.47 kcal/mol、自由エネルギーで ΔG = +1.26 kcal/mol 不安定です(メチル基どうしの立体反発)。実験の生成エンタルピーの差は約1.0 kcal/molです。どちらも回転対称数は2なので、σの補正は差には効きません。
うまくいかないとき
- 「立体を記録」を押しても何も表示されない不斉中心・E/Zの二重結合がない分子では「記録する不斉中心・E/Zの二重結合はありません。」と出ます。「表示 → ラベル」が「なし」になっていないかも確かめます。
- 「不斉中心を反転」が押せない・拒否される4配位の不斉中心を1原子だけ選びます。入れ替える置換基どうしが環でつながっている中心は「環で接続した置換基は反転できません。」と拒否されます。
- 「E/Zを切替」が押せない二重結合の両端の2原子だけを選びます。
- 整形すると拒否される記録した立体と違う形に整形されそうなときは構造を保ちます。もう一度「立体を記録」で記録し直すか、反転・切替で合わせます。
関連: 「1 分子」の右側のページ(変形)、題材5 鎖状分子と配座。