題材14 計算結果から次の計算へ(最適化したp-ニトロアニリンでTDDFT)
題材3で最適化したp-ニトロアニリンの構造を「履歴」から呼び出し、「結果ビューア」の「分子へ候補として適用」で「1 分子」に取り込みます。その構造で計算の種類を変え、CAM-B3LYP/6-31+G*のTDDFTで励起状態(UVスペクトル)を求めます。組み立てた構造と、計算で得た構造の受け渡し方をまとめて確かめます。
| 作るもの | 内容 |
|---|---|
| 分子 | 最適化したp-ニトロアニリン(16原子) |
| 使う機能 | 履歴、結果ビューアで開く、分子へ候補として適用(RMSD・最大変位)、分子と比較、結果の書き出し、分子・条件を再利用、励起状態(TDDFT)、吸収スペクトルの表示 |
| 計算 | CAM-B3LYP/6-31+G*、一点エネルギー+TDDFT(10状態、一重項) |
| 計算時間の目安 | 約42分(MPI 6プロセス) |
| 計算環境 | AMD Ryzen 7 2700X(8コア・16スレッド)、メモリ 32 GB、NWChem 7.3.1(Linux) |
| 練習データ | p_nitroaniline_tddft.molforma.json(取り込んだ構造とTDDFTの条件) |

1. 計算した構造を取り込む
- 題材3のプロジェクト(
p_nitroaniline.molforma.json)を開きます。分子は計算前の初期構造です。 - ヘッダーの「履歴」を開きます。「3 実行設定」のジョブ保存先にあるジョブが、計算名(既定の計算名のままならタイトル)・組成・手法・目的・エネルギーとともに並びます。
-
p-ニトロアニリンのジョブを選び、右側の「結果ビューアで開く」を押します(行のダブルクリックでも同じ)。

図1 「履歴」でジョブを選ぶと、右に詳細と「結果ビューアで開く」が出ます。

図2 「結果ビューア」で開いたところ。最適化の最後の構造を表示しています。
-
「結果ビューア」の上部のバーの「分子へ候補として適用」を押します。表示中の構造(最適化の最後の構造)が「1 分子」の候補になり、ステータスバーに「結果の構造を候補にしました(RMSD 0.0615 Å、最大変位 0.1180 Å)。」のように動いた量が出ます。

図3 結果の構造は候補として表示され、ステータスバーに動いた量が出ます。
- 「変更を確定」します。原子のID・結合・計算条件はそのままで、座標だけが入れ替わります。
「分子へ候補として適用」は、原子の数・順番・元素が一致する結果だけを受け付けます。固定原子が動いている結果は拒否します。「分子と比較」は、取り込まずにRMSDと最大のずれだけを表示します。
構造を受け渡すほかの方法
| 方法 | 持ってくるもの | 注意 |
|---|---|---|
| 「結果ビューア」→「分子へ候補として適用」 | 表示中の構造の座標 | 原子の数・順番が同じ分子に限る |
| 「結果ビューア」→「書き出し」→「表示中の構造をXYZで書き出す…」 | 構造(XYZ) | 結合は開くときに距離から推定。残基・電荷・計算条件は付かない |
| 「履歴」→「分子・条件を再利用」 | 計算に使ったプロジェクト | 計算前の分子と条件を新しい未保存のプロジェクトとして開く |
「ファイル → 開く…」で .nw(NWChem入力) |
最初の geometry と計算条件 |
入力の座標は計算開始時の構造 |
2. TDDFTの条件にする
- 「2 計算条件」の「基本設定」で、計算目的を「一点エネルギー」にします。
- DFT汎関数を「CAM-B3LYP(長距離補正)」、基底関数を「6-31+G*」にします。電荷移動型の励起には長距離補正汎関数が向いています。
-
左の一覧の「励起状態(TDDFT)」で「TDDFTで励起エネルギー・振動子強度を計算」をオンにし、「励起状態の数(nroots)」を 10にします。閉殻なので「三重項も計算」はオフのままにします(入力に
notriplet)。
図4 「励起状態(TDDFT)」の設定。
-
「4 入力プレビュー」で、
tddftブロック(nroots 10)とtask tddft energyを確かめます。
図5 入力の
tddftブロックとtask tddft energy。
TDDFTは一点エネルギーの計算目的だけで使えます(励起状態の構造最適化は対象外)。メタGGA(TPSS・SCAN・M06系など)はNWChemのTDDFTで止まるため選べません。
3. 計算して結果を見る
「計算を実行」(F5)で計算し、「結果ビューア」の「励起状態」タブを開きます。状態ごとの励起エネルギー(eV・nm)と振動子強度の表と、振動子強度をガウス関数で広げた表示用の吸収スペクトル(半値全幅をeVで指定、波長またはエネルギー軸)が出ます。

図6 「励起状態」タブ。状態ごとの表と、振動子強度を広げた吸収スペクトルが出ます。
実行した結果
基底状態のエネルギーは −491.901382279 Eh(CAM-B3LYP/6-31+G*)です。主な状態は次のとおりです。
| 状態 | 励起エネルギー | 波長 | 振動子強度 |
|---|---|---|---|
| 1 | 3.92 eV | 317 nm | 0.00001 |
| 2 | 4.32 eV | 287 nm | 0.389 |
| 6 | 5.53 eV | 224 nm | 0.068 |
| 8 | 6.29 eV | 197 nm | 0.168 |
いちばん強い吸収は状態2(287 nm)で、アミノ基からニトロ基へ電子が移る電荷移動型の励起です。気相の実験値(約290 nm)とよく合います。状態1はほとんど光を吸収しない(振動子強度がほぼ0の)n→π*型の励起です。水などの極性溶媒中では電荷移動型の吸収は大きく長波長側(約380 nm)へずれるので、溶液と比べるときは「周囲の環境」で溶媒を指定します。
うまくいかないとき
- 「分子へ候補として適用」が拒否される結果と今の分子で原子の数・順番・元素が違います。原子を足したり並べ替えたりした後なら、その前のプロジェクトを開き直すか、XYZで受け渡します。
- 履歴にジョブが出ない「履歴」の上部の保存先が「3 実行設定」のジョブ保存先と同じか確かめます。別の場所は「保存先を選ぶ…」で選べます。
- TDDFTの項目が使えない手法がDFT以外か、計算目的が一点エネルギー以外です。
関連: 「結果ビューア」、「履歴」、題材3 芳香族の置換体、題材15 同位体。