題材15 同位体と原子の並び順(エタノール-OD)
最適化したエタノールのO–Hの水素を重水素にして、振動数を計算し直します。元素は同じで質量だけが変わるので、同じ座標での電子エネルギーは変わらず、振動数・ゼロ点エネルギー・熱化学の値が変わります。あわせて、座標の表で質量を確かめ、原子の並び順(NWChem入力の geometry の行の順番)を整える方法を試します。
| 作るもの | 内容 |
|---|---|
| 分子 | エタノール-OD CH₃CH₂OD(9原子・電荷 0・一重項) |
| 使う機能 | 「属性」ページの同位体 / 質量、座標の表の質量の列と元素のセル(D・T)、原子を並べ替え、振動数だけの計算 |
| 計算 | B3LYP/6-31G*、振動数(題材1で最適化した構造) |
| 計算時間の目安 | 約1分(MPI 8プロセス) |
| 計算環境 | AMD Ryzen 7 2700X(8コア・16スレッド)、メモリ 32 GB、NWChem 7.3.1(Linux) |
| 練習データ | ethanol_opt.molforma.json(最適化した構造)、ethanol_od.molforma.json(O–D) |

1. 最適化した構造から始める
振動数は、その手法・基底で最適化した構造で計算します。題材1の計算結果を「履歴」→「結果ビューアで開く」→「分子へ候補として適用」で「1 分子」に取り込み、確定します(題材14)。練習データの ethanol_opt.molforma.json は取り込んだ後の状態です。
2. 水素を重水素にする
- 「選択」ツールでO–Hの水素(H9)をクリックします。
- 右側の「属性」ページの「同位体 / 質量」に 2 を入れて「属性を適用」を押します。整数は質量数(²H)、小数は質量そのもの(amu、例: 2.0141)です。空欄で適用すると既定の質量に戻ります。
-
3D画面のラベルが「D9」になります。

図1 「属性」ページで質量数2を適用すると、ラベルがD9になります。
-
3D画面の下の帯の右端で「3D+表」を選ぶと、座標の表の「質量」の列に質量数の 2 が出ます(ほかの原子は「既定」)。選んだ原子の行が見えていなければ、表はその行まで送られます。表の「原子」のセルに
DやTと入れても、水素の質量数2・3を指定できます。
図2 座標の表の「質量」の列。選んだ原子の行が見えるように表が送られます。
「属性」ページの「元素」を変える(「選択原子をこの元素に変更」など)と、同位体の指定は外れます。NWChemの入力では geometry の行の末尾に mass 2.014101778 が付きます(質量数はOpen Babelの同位体データでamuに変換)。
3. 振動数を計算する
-
「2 計算条件」の「基本設定」で、計算目的を「振動数」にします(最適化はしません)。手法・基底は最適化と同じ B3LYP/6-31G* にします。

図3 計算目的を「振動数」にしたところ。最適化はしません。
-
「計算を実行」(F5)で計算し、「結果ビューア」の「振動」タブでO–DとO–Hの伸縮の振動数を、題材1の結果と比べます。

図4 O–Dの伸縮(2730.7 cm⁻¹)。
実行した結果
| 項目 | エタノール(題材1) | エタノール-OD |
|---|---|---|
| 計算のエネルギー | −155.033797408 Eh | −155.033797408 Eh(同じ) |
| O–H / O–D伸縮 | 3751 cm⁻¹ | 2731 cm⁻¹ |
| C–H伸縮 | 2982〜3134 cm⁻¹ | 2982〜3134 cm⁻¹(変わらない) |
| ゼロ点補正 | 50.37 kcal/mol | 48.32 kcal/mol |
| エントロピー(298.15 K) | 64.34 cal/(mol·K) | 65.19 cal/(mol·K) |
O–Dの伸縮はO–Hの0.728倍で、換算質量の比から見込まれる約1/√2に近い値です。電子エネルギーは質量に依らないので同じで、ゼロ点エネルギーは2.05 kcal/mol下がります。
CH3CH2OH の3つのメチルの水素をまとめて選んで質量数2にすると CD3CH2OH になります。複数の原子を選んで「属性を適用」すると、選んだすべての原子に同じ同位体を設定します。
4. 原子の並び順を整える
「4 入力プレビュー」の geometry の行は、3D画面の番号の順です。原子を足したり消したりした後は順番が混ざるので、必要なら並べ替えます。
- 座標の表の上の「構造」メニューで「原子を並べ替え」を開き、「元素順」「残基順」「選択した原子を先頭へ」のどれかを選びます。
-
元素順では原子番号の小さい順(H・C・N・O…)に並び、同じ元素の中では元の順番を保ちます。並べ替えは「元に戻す」で戻せます。

図5 「元素順」で並べ替えた座標の表。重水素は6番目の水素(H6)になりました。
- 固定原子・拘束・スキャンの原子は永続IDで管理しているので、並べ替えても番号は自動で追従します(
fix atomやzcoordの番号が新しい順番になります)。
うまくいかないとき
- 質量を入れても変わらない「属性を適用」を押していません。座標の表の「質量」のセルでも直接編集できます。
- 「属性を適用」で質量が消えた1原子だけを選んで空欄のまま適用すると、既定の質量に戻ります。
- 振動数に虚振動が出る最適化と違う手法・基底で振動数を計算しています。同じ条件で最適化した構造を使います。
関連: 座標の表(NWChemへの出力)、題材1 原子と結合から組む。