題材8 残基の置換と鎖の編集(変異体を作る)
題材7のACE–Ala–His–Glu–NMEのHisをPheに置き換えて変異体を作り、次にPheを削除して2本に分かれた鎖を再びつなぎます。最後に、XYZに書き出した構造から残基を認識し直す方法と、COSMO(水)の中での一点計算を確かめます。
| 作るもの | 内容 |
|---|---|
| 分子 | ACE–Ala–Phe–Glu–NME C₂₀H₂₇N₄O₆(57原子・電荷 −1)、ACE–Ala–Glu–NME C₁₁H₁₈N₃O₅(37原子・電荷 −1) |
| 使う機能 | 選択残基を置換、残基を削除(鎖を分割)、寸法による2つの鎖の位置合わせ、選択した2末端を再連結、残基の一覧、結合グラフから残基を認識 |
| 計算 | B3LYP/6-31G*、一点エネルギー、COSMO(水)(変異体) |
| 計算時間の目安 | 約31分(MPI 8プロセス、ほかの計算と並行、「DFT積分を毎回再計算」オン) |
| 計算環境 | AMD Ryzen 7 2700X(8コア・16スレッド)、メモリ 32 GB、NWChem 7.3.1(Linux) |
| 練習データ | ace_afe_nme.molforma.json(変異体)、ace_ae_nme.molforma.json(再連結後) |

1. HisをPheに置き換える
- 題材7のプロジェクト(
ace_ahe_nme.molforma.json)を開きます。 - 3D画面の配列の「HIS 2」をクリックしてHisの原子を選びます。
- 部品パレットの分類「アミノ酸」で「フェニルアラニン」をクリックし、右側の「残基」ページの「選択残基を置換」を押します。
-
候補が C20H27N4O6 · 57原子 · 電荷 −1 であることを確かめて「変更を確定」します。

図1 HisをPheに置換した候補(C20H27N4O6 · 57原子)。配列の表示もPHEに変わります。
主鎖のN・Cα・C・Oの位置はそのままで、側鎖とその水素が入れ替わります。主鎖のアミドの水素はペプチド結合の面内(前の残基のC=Oと反対側)に置き直されます。原子の番号は振り直されるので、番号で原子を指定する設定(拘束など)は置換の後に確かめてください。側鎖の向き(χ1)は「主鎖・側鎖の二面角」の chi1 で変えられます。
2. 残基を削除して鎖を分ける
-
「PHE 2」を選び、「残基」ページの「残基を削除(鎖を分割)」を押します。候補は C11H20N3O6 · 40原子です。確定します。

図2 「残基を削除(鎖を分割)」の候補。消える原子に×印が付きます。
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鎖はACE–Ala と Glu–NME の2本に分かれ、切れ目はそれぞれ非荷電の末端(AlaのC末端はCOOH、GluのN末端はNH2)になります。「残基」ページの「残基の一覧」には「ALA 1 · N末端 ACE · C末端 COOH」「GLU 3 · N末端 非荷電 · C末端 NME」のように表示されます。

図3 分割後の「残基の一覧」。切れ目は非荷電の末端になります。
-
全電荷はGluの側鎖の−1のままです。
末端の状態を変えるには、残基を選んで「N末端」「C末端」を選び、「選択した鎖の両末端へ適用」を押します(例: COO−とNH3+の荷電末端にすると、全電荷が形式電荷の合計に追従します)。
3. 2本の鎖をつなぎ直す
再連結は、C末端のCとN末端のNが1.1〜1.7 Åの距離にあるときだけ行います。離れた鎖は先に寸法で近づけます。
- 3D画面の上の「選択単位」を「原子」にし、AlaのC末端の炭素(C)をクリック、GluのN末端の窒素(N)をShift+クリックします。左下に距離が出ます。
-
「距離 / Å」に 1.33 を入れて「寸法を適用」を押します。2原子は別々の鎖(結合していない分子)なので、後に選んだ原子を含むGlu–NMEの鎖全体が平行移動します。

図4 別々の鎖の2原子に距離を適用すると、後に選んだ原子の鎖が平行移動します。
-
AlaとGluの原子を、C末端側(Ala)→ N末端側(Glu)の順に選んだまま、「選択した2末端を再連結」を押します。末端のOH・Hが外れ、C11H18N3O5 · 37原子の候補になります。確定します。

図5 「選択した2末端を再連結」の候補(C11H18N3O5 · 37原子)。
-
「全体整形」で結合の周りを整えます。

図6 再連結して整形したACE–Ala–Glu–NME。
離れていると「C–N距離が … Å です。1.1〜1.7 Åに整えてから連結してください(…)」と、今の距離と近づけ方を表示して拒否します。同じ鎖の両端をつなぐ環状ペプチドは作れません(異なる鎖の末端どうしだけです)。
4. XYZから残基を認識し直す
XYZファイルには元素と座標しかないので、開くと残基・形式電荷・計算条件の情報は失われ、結合は距離から、結合次数は幾何から推定されます。
-
「1 分子」の座標の表の「書き出し → XYZ(Å)を書き出す…」でXYZに書き出し、「ファイル → 開く…」で開き直します。ステータスバーの電荷は0になり、「残基」ページの一覧は空です。

図7 XYZを開き直すと、残基・形式電荷の情報はなくなります(「残基の一覧」は空)。
- 「残基」ページの「結合グラフから残基を認識」を押します。元素とつながりから標準アミノ酸の残基を見つけて原子名を付け、鎖の両端のACE・NMEのキャップも認識した候補を作ります(RDKitが必要)。
- 形式電荷は水素の数から決めます。水素のないカルボキシ基の酸素(COO−)は−1、4本の結合を持つ窒素(NH3+、Lys・Argの側鎖)は+1、両方の窒素に水素があるHisはHIP(+1)です。HisのHID・HIE、Asp・Gluの荷電・中性などの側鎖の状態も同じく決まります。
-
確定すると、3D画面の配列(ACE 0 · ALA 1 · PHE 2 · GLU 3 · NME 4)と残基の一覧が戻り、全電荷は形式電荷の合計(−1)に追従します(認識の前の全電荷が形式電荷の合計と一致していた場合)。

図8 「結合グラフから残基を認識」の候補。配列とキャップ、Gluの電荷が戻ります。
- 認識できなかった原子は「未登録の原子を選択」で選べます。選んだ原子は「選択原子を残基に登録…」で3文字コードを付けて登録できます。
残基・電荷・計算条件を保ったまま受け渡すには、XYZではなくプロジェクト(.molforma.json)を使います。
5. 計算して結果を見る
変異体(ACE–Ala–Phe–Glu–NME)を、題材7と同じ条件(B3LYP/6-31G*、一点エネルギー、COSMO・水、全電荷 −1、「DFT積分を毎回再計算」オン)で計算します。組成が違う分子どうしのエネルギーの差には意味がないので、比べるのは溶媒和エネルギーなどの性質です(電荷を持つ分子の双極子モーメントは原点の取り方で変わるので、比べられません)。

図9 変異体の「結果ビューア」の「概要」。
実行した結果
| 項目 | ACE–Ala–His–Glu–NME(題材7) | ACE–Ala–Phe–Glu–NME(変異体) |
|---|---|---|
| 原子数 | 54 | 57 |
| 計算のエネルギー(COSMO・水) | −1442.962159354 Eh | −1448.981253478 Eh |
| 同じ構造の気相のエネルギー | −1442.808414957 Eh | −1448.839933595 Eh |
| COSMO溶媒和エネルギー(静電項) | −96.48 kcal/mol | −88.68 kcal/mol |
極性のあるイミダゾール(His)を無極性のベンジル基(Phe)に替えると、溶媒和エネルギーは約7.8 kcal/mol小さくなります。どちらも大部分はGluのカルボキシラート(−1)の寄与です。
うまくいかないとき
- 「対象の残基を選択してください。」残基の原子を選んでいません。配列の残基名をクリックするか、選択単位を「残基」にして原子をクリックします。
- 「アミノ酸を選択してください。」パレットでアミノ酸(分類「アミノ酸」)を選んでから「選択残基を置換」を押します。
- 「異なる鎖の空いたC末端、N末端を選んでください。」同じ鎖の残基を選んだか、選んだ順番が逆です。C末端側の残基を先に選びます。
- XYZを開き直すと結合が多い・少ない距離から結合を推定するため、原子どうしが近すぎる(1 Å前後)と余分な結合ができます。開く前の構造で「全体整形」をしておくか、プロジェクトで受け渡します。
関連: 「1 分子」の右側のページ(残基)、題材7 ペプチド、題材15 同位体と原子の並び順。